会計専門職大学院修了者の実態

島崎 崇

公認会計士試験に於いて、会計専門職大学院修了者は、特殊な存在である。短答式試験では、4科目中3科目が免除される。その一方、論文式試験では、短答式試験のような優遇措置は無く、他の受験者と対等に戦わなければならない。その結果、会計専門職大学院修了者は、短答式試験、論文式試験の何れに於いても、他の一般受験者とは異なる特徴を示す。ここでは、資料の分析を通して判明した会計専門職大学院修了者の実態について説明する。


裏口受験者

会計専門職大学院は、2005年以降、日本各地の大学に新設された大学院である。入学から2年間就業して修了となる。会計専門職大学院を修了した者は、公認会計士短答式試験に於いて、財務会計論、管理会計論、及び監査論の3科目が免除され、企業法だけを受験すれば良いのである。

会計専門職大学院修了者は、2007年以降、毎回数百名が公認会計士短答式試験を受験している。勿論、企業法のみの受験である。中には、会計専門職大学院在学中に短答式試験4科目を受験して合格する兵も、少数であるが存在する。これらの者は、会計専門職大学院修了者に与えられる特権を利用していないため、全科目受験者として扱う。

短答式試験受験者の大多数は、全科目を受験する。そして、短答式試験の合格水準に達するまで、平均で2~3年を要する。この全科目受験者にとって、企業法は、全体の5分の1に過ぎない。つまり、単純に考えると、会計専門職大学院修了者は、僅か5分の1の勉強量で短答式試験を突破することができるのである。このような背景から、会計専門職大学院修了者を、略して「裏口受験者」と呼ぶことにする。


短答式試験の合格率の推移


 上図の合格率は、一般受験者の合格倍率に示したデータに基づいている。
 2006年以前は、裏口受験者が存在しなかったため、受験者全体の合格率と一般受験者の合格率は同じである。
 2009年以前の各合格率、及び2010年以降の全体の合格率は、実際値である。2010年以降に於ける一般受験者の合格率と裏口受験者の合格率は、必要なデータが隠蔽されているため、限られた情報を基に私が見積もった推定値であり、幾らかの誤差を含んでいる。

上図から、裏口受験者は、一般受験者と比較して著しく合格率が高いことが分かる。その反作用として、一般受験者は、少なからず悪い影響を受ける。即ち、この裏口受験者を除いた一般受験者の合格率は、受験者全体の合格率よりも低くなるのである。

しかしながら、この事実は、明らかにされていない。公認会計士・監査審査会が、短答式試験の受験者数及び合格者数の内訳を隠蔽しているからである。その結果、受験者は、一般受験者であろうと裏口受験者であろうと、自分が受験する試験の本当の合格率を知ることができない。公認会計士試験は、恐ろしく如何わしい国家試験なのである。


公認会計士試験合格者調

裏口受験者は、短答式試験を難なく通過する一方、論文式試験に於いては一般受験者に比べて著しく合格率が低い。例えば、2012年のデータは、平成24年公認会計士試験の合格発表についてにある「平成24年公認会計士試験合格者調」から得られる。

学歴別合格者調の頁を見ると、会計専門職大学院修了者の合格率が際立って低いことが分かる。2012年論文式試験に於ける会計専門職大学院修了者の合格率は、僅か89/728=12.23%である。それに対し、他の受験者(旧2次試験合格者を除く)の合格率を計算すると、(1,301-89)/(3,257-728)=47.92%となる。

ここで、会計専門職大学院修了者をそのまま裏口受験者と考えてはいけない。何故なら、この前年、会計専門職大学院在学中に短答式試験を4科目受験して合格し、論文式試験に不合格になった一般受験者がここに混在しているからである。又同様に、前々年に短答式試験に合格した一般受験者も含まれている。これらの会計専門職大学院修了者は、裏口受験者ではないため、他の一般受験者と同程度の合格率が期待される。

従って、裏口受験者の合格率を正確に計算するには、会計専門職大学院修了者に区分された一般受験者を除外しなければならない。しかし、公認会計士試験合格者調には、会計専門職大学院修了者の内訳が示されていない。このような学歴別や年齢別のデータよりも、短答式試験の受験科目数別内訳の方が重要な受験者区分であるが、これが明らかにされていないのである。

私は、会計専門職大学院修了者の区分から一般受験者を取り除くため、会計専門職大学院在学者の区分に着目した。そして、年々の会計専門職大学院在学者の人数を手掛かりに、裏口受験者の受験者数及び合格者数を推測し、凡その合格率を計算することができた。その結果を次のグラフ及び表に示す。


論文式試験の合格率の推移


 2006年以前は、裏口受験者が存在しなかったため、受験者全体の合格率と一般受験者の合格率は同じである。
 期間を通して全体の合格率は、実際値である。2007年以降の一般受験者の合格率と裏口受験者の合格率は、推定値であり、若干の誤差を含んでいる。

2007年以降の論文式試験の受験者データ

一般裏口全体
20076,182
2,678
43.32%
138
17
12.32%
6,320
2,695
42.64%
20086,601
2,967
44.95%
433
57
13.16%
7,034
3,024
42.99%
20094,761
1,854
38.94%
600
62
10.33%
5,361
1,916
35.74%
20104,326
1,842
42.58%
685
81
11.82%
5,011
1,923
38.38%
20113,509
1,398
39.84%
745
49
6.58%
4,254
1,447
34.02%
20122,574
1,233
47.90%
683
68
9.96%
3,257
1,301
39.94%

 各年の上段は受験者数、中段は合格者数、下段は合格率を表す。

ここで、受験者全体と一般受験者の論文合格率に着目する。上図又は上表を見ると、2007年は両者の合格率の差が僅か43.32-42.64=0.68%点であるが、その後徐々に乖離し、2012年には47.90-39.94=7.96%点もの差が生じていることが分かる。これは、受験者全体に占める裏口受験者の割合が年々増加していることに起因している。

仮に、このまま裏口受験者の割合が増加していき、且つ論文式試験の合格率が40%前後のまま推移した場合は、一般受験者の合格率は優に50%を超えるが、裏口受験者の合格率も上昇し始める。これは、公認会計士試験合格者の水準が低下することを意味する。

そのような事態を避けるには、論文合格率を徐々に低下させるか、裏口受験者の優遇措置を縮小すれば良い。もっとも、後者の方法は、入学者の確保に躍起になっている会計専門職大学院経営者の反発を買うことになるため、実現の可能性は乏しい。それどころか、彼らは逆に、裏口受験者の無様な論文合格率を改善するべく、論文式試験に於いても裏口受験者に対する優遇措置を設けることを企んでいるかも知れない。仮に、そのような方向に事が進んでしまうと、合格者の水準は、地に落ちることになろう。


まとめ

以上の分析から、裏口受験者は、短答式試験と論文式試験とで、全く逆の振る舞いをしていることが判明した。つまり、裏口受験者は、一般受験者に比べると、短答合格率が著しく高く、論文合格率が著しく低い、という特徴がある。又、裏口受験者は、短答式試験に於いては一般受験者の合格率を押し下げる一方、論文式試験に於いては一般受験者の合格率を持ち上げる役割を果たしている。

近年の論文式試験の合格率から計算すると、一般受験者の約7割は、2回以内に論文式試験に合格する。その一方で、合格率が10%前後の裏口受験者は、恐ろしいことに、論文式試験を3回受験しても、約7割が合格できない。

論文式試験で3連敗を喫した裏口受験者のうち、往生際の悪い者は、翌年に短答式試験に舞い戻って来る。そして、公認会計士・監査審査会による隠蔽政策のお蔭で、この循環受験者は、再び、こっそりと裏口から侵入し、一般受験者に与えられるべき合格者の席を奪い取るのである。


公認会計士試験の合格率
一般受験者の合格倍率

© 2013 島崎 崇
更新: 2013年9月9日